
留学先:University of Pennsylvania,アメリカ・ペンシルベニア州
研究室:Dyment Lab (PI:Nathaniel Dyment)
留学期間:2025年2月14日〜2025年6月14日
留学資金源:日本学術振興会 若手研究者海外挑戦プログラム (140万円)
私は,2022年2月14日からの4ヶ月間,University of Pennsylvania, Macky Orthopeadic Research LaboratoryのDyment Labに留学しました.私はこれまで,完全損傷前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament: ACL)の自己治癒メカニズムを解明すべくマウスを用いた基礎研究に取り組んできました.従来,ACLは損傷後の血行不良や細胞活性の低さなど様々な生物学的要因から自己治癒しない靭帯だと考えられてきましたが,本研究室ではACL完全損傷後の異常な脛骨前方変位という運動力学的要因に着目し,これを制動することでACLが自己治癒することを解明しました.しかしながら,これまで一貫して自己治癒しないと考えられてきたACLが異常な脛骨前方変位を制動するのみで自己治癒するメカニズムは未解明です.そこで,今回の留学先であるDyment Labと国際共同研究を実施することでACL自己治癒メカニズムの一端を明らかにすべく留学を計画しました.Dyment Labは,Biomedical Engineeringを専門とするPI (Prof. Nathaniel Dyment) のもと,Staff 1名,ポスドク 2名,大学院生 4名が所属する研究室です.主な研究内容は,特定の細胞集団を蛍光で標識できるLineage tracing mouseを用いて,腱・靭帯の骨接合部における発生・発達過程に貢献する細胞集団を明らかにしているほか,腱の正常発達過程と損傷後の治癒過程における細胞系譜の共通性を見出すなど腱・靭帯の発生・発達および治癒メカニズムの解明に取り組んでいます.
今回の滞在期間中は,様々な種類の遺伝子改変マウスを用いてACL自己治癒過程を評価しました.私自身,国分研究室では遺伝子改変マウスを用いた実験は未経験であったため,使用するマウスの表現系や遺伝子改変マウスの管理方法,特定の細胞集団を標識するために必要な介入とそのメカニズムなど,PIや研究室のメンバーの助けを得ることで,遺伝子改変マウスを用いた実験方法について理解を深めることができました.今後は国分研究室でも遺伝子改変マウスを用いたACL治癒研究を実施予定であるため,今回の滞在で得た学びをもとに自身の研究を加速させていきたいと考えています.
また,他にもフィルムを用いた凍結切片作成方法や凍結切片から組織を採取し遺伝子発現量を計測する手法など,彼らが確立した独自の実験手法を多く学ぶことができました.これまでの実験では,マウスACLが非常に小さいが故に生化学解析に用いることが困難でしたが,これらの手法を用いることで信頼性のあるデータを得ることができ,今後の解析手法の幅が広がる学びを得ることができました.実験以外の面でも,滞在期間中はPIであるProf. Dymentとミーティングを毎週実施しました.彼は整形外科領域で米国最大の学会Orthopeadic Research Societyにて優秀な若手研究者が表彰されるKappa Delta Awardを受賞した分野をリードする若手研究者であり,ディスカッションを通して彼の研究に対する姿勢やモチベーションを直接学ぶことができたのは,今後のキャリアを考える上で非常に有意義な経験となりました.またDyment Labが所属するMacky Orthopeadic Research LaboratoryはNIH (アメリカ国立衛生研究所) の助成金獲得実績が整形外科領域において全米No.1である大規模研究機関であり,日本国内の研究室との規模の違いに驚くとともに博士後期課程を卒業したその先でそのような研究環境に身を置き,研究を発展させたいと感じるようになりました.


生活面では,今回滞在したペンシルベニア州フィラデルフィアは,アメリカ独立宣言の地として知られ,歴史ある都市として有名です.私が滞在したフィラデルフィアのCenter cityは治安も良く,綺麗な街並みが並ぶエリアでした.スポーツも盛んで地下鉄を利用してスタジアムに行くことができるため,滞在中は野球 (MLB),バスケ (NBA),サッカー (MLS)を楽しむことができました.特にドジャースの試合を観戦し,大谷選手を間近で見ることができたのは一生の思い出です.また,フィラデルフィアからはアメリカ全土を走る長距離列車アムトラックを利用することでニューヨークやワシントンD.C.,ボストンなどの都市にも比較的簡単に行くことができ,滞在中はニューヨークでの観光を楽しみました.滞在中はトランプ大統領によるハーバード大学留学生のビザ停止措置の問題など,留学生にとってハラハラする情勢もありましたが,無事に4ヶ月間の滞在を終えることができ非常に有意義な留学生活を送ることができました.

