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留学先:University of California, Davis,アメリカ・カリフォルニア州

 

研究室:Christiansen Lab (PI:Blaine A Christiansen)

 

留学期間:2023年2月13日〜2023年5月21日

 

留学資金源:

❶埼玉発世界行き奨学金 浦和競馬チャレンジ奨学金 短期コース (50万円)

❷日本学術振興会 若手研究者海外挑戦プログラム (140万円)

 

 

 私は,2023年2月13日からの約3ヶ月間,Department of Orthopaedic Surgery, University of California Davis HealthにあるChristiansen Blaine Labに研究留学していました.

 Christiansen Labは(当時),Post-Doctor 1人,Ph.D. student 3人,Undergrad student 2人,計7人の研究室です.主な研究内容としては,実験動物モデルを用いて,骨折や骨粗鬆症といった骨リモデリング,関節外傷後に二次的に発生する変形性膝関節症(PTOA)の発症メカニズムを探索しています. 2022年に開催された米国整形外科基礎学会(Orthopaedic Research Society Annual Meet)にてお会いしたことがきっかけとなり,指導教員を介して留学するチャンスを得ることができました.これまで海外留学を経験したことがなく,英語での会話を含め,初めてのことばかりで多くの不安がありました.ですが,渡航前からBlaineと複数回にわたりやり取りをすることで,滞りなく研究を着手することができました.また,ポスドク研究員やPhD studentが暖かく迎えてくれたため,非常に安心しながら留学生活を送ることができました.

最も高頻度に発生する膝関節障害である前十字靭帯損傷は,受傷時に生じる関節面衝突(直接的ストレス)が原因で関節軟骨や軟骨下骨といった組織への急性損傷が生じます.その後,前十字靭帯が断裂して機能しないことで膝関節がグラグラになります(関節不安定性とも表現します).このような急性損傷と二次的な関節不安定性の双方が影響することで,関節軟骨がボロボロになり痛みや機能制限を引き起こす“変形性膝関節症”という疾患を発生させますが,双方のもたらす影響度は明らかになっておりません.Blaineは,前十字靭帯損傷患者のように,マウスにおいて関節面を衝突させながら前十字靭帯を断裂させる装置を開発し,その後に生じる変形性膝関節症発生メカニズムを第一線で研究しています(Christiansen, OAC. 2012).しかしこのマウスモデルでは,受傷時に生じる関節面への直接的ストレス(急性損傷)と二次的に生じる関節不安定性のどちらがより優位に変形性膝関節を誘発しているかを明らかにすることができない課題があります.そこで,私が近年開発した関節面を衝突させずに前十字靭帯損傷を引き起こすマウスモデル(Takahata, OAC. 2023)とBlaineのマウスモデルを比較することで,急性損傷と関節不安定性の影響を明らかにすることができます.今回の留学では前十字靭帯損傷後の変形性膝関節症発生メカニズムにおいて,急性損傷と関節不安定性の影響をそれぞれ明らかにすることを目的としました.結果として,関節面衝突を伴わないマウスモデルと比較して,衝突を伴うマウスモデルでは前十字靭帯損傷が生じた時点で,関節軟骨表層の粗さ増大に伴う軟骨微細損傷が発生しました.また,その微細損傷が軟骨細胞における関節軟骨分解酵素:Matrix Metalloproteinas-13(MMP-13)を増大させることで,急性期より関節軟骨変性を誘発することが明らかとなりました.さらには,関節軟骨の下に位置する軟骨下骨の骨硬化をより早期から誘発することで,変形性膝関節症をいち早く発症させることがわかりました.これまで,前十字靭帯損傷後に変形性膝関節症を発症させるにあたり二次的な関節不安定性が主要因として認識されてきましたが,本研究にて「靭帯損傷時の関節面衝突が微細な軟骨損傷を引き起こし,軟骨下骨骨硬化を介してより早期から変形性膝関節症を発症させる」ことが示唆されました.今後は臨床応用を見据えて,軟骨微細損傷が起点となる変形性膝関節症を如何にして抑制することができるかを明らかにすることができればと思います.また,Blaineをはじめ,多くのラボメンバーが実験モデルの作製,関節不安定性の評価,MMP-13発現量の解析,軟骨下骨の構造学的解析を1から教えてくれおかげで滞りなく実験を終えることができたため,彼らにはとても感謝しております.

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自身の研究領域に近しいトップレベルの研究機関を数ヶ月訪問できたことで,研究的思考を培うプロセスを学ぶことができました.私含め,国分研究室の研究背景はリハビリテーションであり,埼玉県立大学は医療系の単科大学であるため,研究テーマに対して医療的側面の知識を手がかりにすることが多かったです.一方で,渡航先であるUniversity of Califlorniaは総合大学であり,在籍した研究室の研究員は全員Biomedical Engineerであるため多くの学問と触れ合う機会がありました.毎週開かれるカンファレンスでは各学問の研究者が参加していたため,同じ研究領域でもデザインを構築するプロセス,方法論に関する考案・検証,結果を踏まえた考察法など,その全てが斬新であり私には不足している部分であると強く感じました.研究目的を実証するにあたり,最適な研究内容を考案し実行するためには多くの研究フィールドと触れ合う必要性があることを再認識することができた非常に貴重な機会でした.また,それと同時に,英語を通して研究成果を積極的に世に発信していくことの大切さも感じることができました.申請者の研究背景にあるリハビリテーション学は運動強度・様式といった考えに精通した学問であり,同時に研究的思考における最大の強みでもあります.本プログラムで渡航した研究室では筋骨格系疾患の身体適応に関する研究テーマが殆どであり,運動やメカニカルストレスといった考え方が非常に重要となります.研究デザインの中でも方法や結論に関してディスカッションしていく中で,私が指摘したことで渡航先の研究員が初めて気づく発見が幾つかありました.しかしながら,複雑な会話になる程,言語の壁から自身の考えを上手く伝達することができずに歯痒い思いをすることも幾度となくありました.これらの経験から,自身が日本で培ってきた研究的思考は世界で通用することが判明した一方,世界に発信しないまたは英語が話せないということで意義のある知識や考え方が流布されないことを知ることができました.この事実は非常に惜しいことであり喫緊の課題であると考えられるため,国際学会や海外研究機関への訪問を通して,研究成果を積極的に世に発信していくことの重要性を強く認識することができた貴重な機会となりました.

今回訪れたカリフォルニア州サクラメントは危険ということもなく,現地人はみな暖かく安全な生活を送ることができました.サクラメント自体には何か観光名所があるわけではないのですが,車があればサンフランシスコやヨセミテ国立公園といった有名な場所に行くことができるので,uberや友達と一緒に観光を楽しむこともできると思います.ただ,サクラメントにはおしゃれなカフェが自転車で行ける距離にたくさんあったので,そこはお勧めできるポイントです.ちなみにスーパーはなんとも言えない距離にあるので,自転車で行動するのはかなり大変だったことを今でも覚えております...

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