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留学先:Missouri University,アメリカ・ミズーリ州

 

研究室:Thompson Laboratory for Regenerative Orthopaedics (PI: Aaron Stoker, PhD)

 

留学期間:2019年2月6日〜2019年3月24日

 

留学資金源:埼玉発世界行き奨学金 浦和競馬チャレンジ奨学金 短期コース (50万円)

 

 私は2019年2月6日から3月24日までの約1か月半,アメリカのミズーリ州にあるMissouri Universityの併設機関であるMissouri Orthopaedic Institute(MOI), Thompson Laboratory for Regenerative Orthopaedics(TLRO)にて研修を行いました.本留学を行った目的は3つあります.1つ目はアメリカの理学療法の臨床見学を通して日本との違いを知り,日本の理学療法の現状を客観的に把握するとともに,今後理学療法士として活動する上での考え方や知識の幅を広げることでした.2つ目はリハビリテーション領域における基礎研究についての専門的な知識や技術を学び,自分自身の行う研究に役立てることでした.3つ目は積極的にコミュニケーションを図って英語力向上を目指すとともに,アメリカの文化や習慣,考え方に触れ,自分自身について見つめ直したりすることでした.

 

【Missouri Orthopaedic Institute (MOI)】

 週4日間は,MOIにて臨床見学および研究室での見学・実験補助を行いました.MOIは整形外科クリニックに研究機関が併設された機関です.ここでは研究に基づいた,新たな手術法やそれに基づくリハビリテーションプロトコルの実践,データ収集が行われています.中でも,再生医療に関する研究が行われる機関が併設された体制は世界でも珍しく,世界でも最先端の臨床研究も行われています.特に,Biojointという同種移植の手術を行った患者さんの理学療法を見学させていただけたのはMOIならではの経験でした.Biojointは関節症や軟骨損傷,靱帯損傷の患者さんに適応される組織の再生技術です.現在一般的に行われている人工物への置換に比べ,より優れた耐久性や幅広い対象者への適応が期待されており,患者はアメリカ全土,さらには海外からも手術を受けにくるほどです.そのような術後転機においても理学療法の有用性が実証されつつあり,その意義や将来性を実感することができました.

【Thompson Laboratory for Regenerative Orthopaedics(TLRO)】

 今回研修を行ったTLROは主にヒトと動物両方の同種移植に関する実験が行われている研究室でありました.関節症や骨粗鬆症,軟骨変性などを含む一般的な筋骨格系の障害に対し,完全な再生は困難であり,適切な治療法は未だ確立されていません.TLROは病態の早期診断に焦点を当て,効果的な予防,再生,回復戦略を発展させることに注力し,患者さんに1人1人にあった解決策を見つけることで機能改善やQOLの向上を目指しています.

 ミズーリ大学のように医学部,獣医学部,工学部が1つのキャンパス内にある大学は多くは有りません.また,整形外科に特化した研究機関に再生整形外科病院が併設された機関も数少ないです.ミズーリ大学では,この特徴を生かしてリサーチチームを形成し,大学特有の共同研究を行っています.これにより分子レベルの基礎研究から臨床研究まで実施することができ,動物・ヒトの両方の患者に対してダイレクトに解決策を適応できる体制が整っています.また,研究者たちは普段は臨床で働いている方も多く,研究の成果を患者さんの機能・生活の向上に繋げ,一方臨床で生じた課題・問題から新たな研究に結び付けるサイクルが出来上がっていました.

 TLROでの研修をして一番驚いたことは,私が現在大学でやっている実験の工程全てにそれぞれの専門家がいたことです.手術をする整形外科医,組織採取を行う獣医,染色を行う組織学の技術者,解析を行う病理医等,それぞれの得意分野を極めているため,知識・技術が格別でした.そして,学生はそれぞれの専門家から指導を受けることが出来ます.私自身も,自分の卒業研究で行き詰まっていた組織学的解析の工程に関して,その部署の方に直接指導して頂くことが出来ました.また,私は現在in vivoでの実験を主に行っていますが,TLROではin vitro(人工的な環境)での研究にも優れた実績があります.今後自身の研究を深め,科学的根拠を明らかにしていくためには必ず必要になる側面であると感じています.今回その実験の一連の過程に携わる手伝いをさせて頂くことができ,新たな手法について実践的に学ぶことが出来たと感じています.基礎研究から臨床研究,さらに実際の治療の場面を全面的に見させていただいたことで私にとって非常に意味のある留学となりました.理学療法のエビデンスを確立するには基礎研究が重要ですが,それに基づいて臨床応用まで結びつけることに本当の研究意義があるということを再確認でき,理学療法士でありながらも研究を続けていきたいという気持ちが強くなりました.

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【留学全体を通して】

 渡航前の受け入れ先とのやり取りでは,理学療法の臨床見学と研究室で行われている実験の見学ができると聞いていました.行けば色々と見学できるのかと軽い気持ちでいましたが,実際行ってみると思いのほか何も決まっていないことに動揺しました.今思い返すとすごく受け身の姿勢でした.留学開始日から2日間は中々行動したりコミュニケーションをとったりすることが出来ず,事務的な手続きのみで暇な時間を過ごしてしまいました.せっかくアメリカまで学びに来たのにこのままでは勿体ない思い,3日目にしてようやく,行動に踏み切った.メールでアポイントをとり,Labでどんな研究が行われているか,今週予定されている実験はあるか,また,PTの方にも見学可能な日はあるか,直接交渉を行いました.実際に話してやりたいことを伝えるととても親切で,「こんなことをやっているから来てみたら」,「こんな論文を読んでみて」,「この人と話してみたら」等,一気に人とのつながりも広がっていきました.MOIの方々はとても親切で優しいですが,はっきりと自分の存在や目的を主張しない限りは相手も無関心であり,意思表示の大切さを身に染みて感じました.

 見学中には,一通り説明した後,必ず質問はある?と尋ねてくれました.初めは自分の英語力に自信がなく,無いと答えてしまっていましたが,解決したい疑問があるのに聞けないというもどかしさが溜まっていくだけでした.そのため,次こそは聞けるようにと,家で単語を調べて手帳にメモし,質問の練習をしていった.翌日それを質問してみるととても丁寧に説明してくれた.これをきっかけに,その場で単語を調べながらも質問が出来るようになった.相手も私が分からない単語を調べる間,ゆっくりでいいよと待ってくださり,私が1回で理解できなくても,易しい言葉に直して説明してくれたり,理解できたか?と確認してくれたり,ジェスチャーを使って表現してくれたりと,とても親身になってくれました.また,質問をすると「Good question!」といってくれるのが嬉しく質問するのを躊躇わなくなりました.質問をしたことで自分の興味を知ってもらうことができ,他に見学できる人や場所を紹介してもらえました.さらに,Labでは質問や会話を繰り返すうちに手法を理解できていると認識してもらえ,実験をHands onで手伝わせてもらえるようになりました.

「日本人は自己主張が苦手」といわれることがありますが,自分はまさに典型的な日本人であったとこの留学を通して痛感しました.今回も自分からやりたいと言わなければ,質問をしなければ得られなかった知識や経験があり,自己主張がいかに重要であるか身を持って学びました.さらに,自己主張したことで予想以上の経験や人との出会いにつながったことは自信にもつながりました.もちろん,より専門的な領域で意見を交わしたり,自分の気持ちを正確に伝えたりするには英語力の向上は欠かせません.滞在期間中,毎日多くの人々と会話をするうちに,反応の仕方,表現方法等,教科書では習わないネイティブの英語も徐々に使ったり聞き取れたりできるようになってきましたが,伝わらずにもどかしい気持ちも何度も味わいました.今回は1ヶ月半という短い期間であり,見学や実験補助が中心でしたが,今度はより専門的なことを長期でじっくりと学び,研究チームの一員として留学したいという気持ちが強くなりました.そのために,理学療法・研究分野の知識はもちろん,使える英語力を身に付けていきたいと思います.

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© The Kokubun Laboratory

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